「ある程度漕げるようになったけど、ここから速くならない…」——カヌースプリントの中級者がぶつかる壁です。元選手として、現役時代に本当に意識していたことを、再現性のある形でお伝えします。
スタートの1本目で、レースは半分決まる

私の場合、最初の8パドル(8ストローク)ぐらいで最高速度に乗れるタイプでした。そのために意識していたのが、最初の3〜5パドルは短く、かつ体の近くを漕ぐこと。水を引いてくる方の腕の曲がる角度は、なるべく90度を意識します。
- そのぶん体をねじって、一番自分のパワーが出せる角度を自分で探すのが最優先。
- 身体の左右で、どちらの腕・どちらの足・どちらの体が一番パワーを出しやすいか——意識しだすことで見えてきます。
💡 号砲前は、普段のパドリングピッチ(私は当時110〜120BPMぐらいで漕いでいました)がどうだったかを思い出すようにしていました。それよりも、普段の練習で作ってきた個人個人のルーティーンを意識するほうが、一番実力を出せると思います。今思えば、当時はただ緊張していただけで、そんなに考えていなかったのかもしれません(笑)
1. 速さの鍵は「ストロークレート(ピッチ)」
ガムシャラに力で漕いでも速くなりません。スプリントで効くのは一定の高いピッチ(漕ぐテンポ)を、フォームを崩さず維持すること。
- 目安: 左右の漕ぎで 120BPM 前後を一つの基準に(※種目・距離・体力で最適値は変わります)。
- 「速く・強く」より「速いテンポを、ブレずに、最後まで」が勝負どころ。
💡 ピッチが上がってもフォームが崩れたら逆効果。一定のリズムを保てる範囲で上げていくのがコツ。
2. リズムは「音楽」で体に入れる(実体験)
正直な裏話を一つ。現役時代、120BPMのテンポを体に染み込ませるために、ちょうどそのくらいのテンポの曲を聴きながら漕いでいました。
具体的には レディー・ガガ「Poker Face」(テンポが約120BPM)。曲のビートに漕ぎを合わせると、一定ピッチの感覚が自然と身につくんです(笑)。
- ポイントは「自分の目標ピッチに近いBPMの曲」を選ぶこと。メトロノームアプリでもOKですが、好きな曲のほうが続きます。
3. パドルの「角度(フェザリング)」を自分に合わせる
カヤックのパドルは、シャフトの中央で左右ブレードの角度を微調整できるもの(2ピース等)があります。
- この角度(フェザリング)を自分の手首がラクで、水のキャッチが素直になる角度に合わせると、長距離でも疲れにくく、ピッチも安定します。
- 「なんとなく標準のまま」ではなく、自分仕様に詰めるのが中上級の差。
(パドル全般の基礎は→「パドルの選び方」)
🛶 ちなみに私の現役時代の相棒は JANTEX と Bracsa(ブラーチャ)。競技用パドルは専門店の正規ルートで選ぶのが確実です→「競技用カヌー・パドルはどこで買う」。
艇も自分仕様に詰める——フットバーの位置
パドルの角度と同じくらい大事なのに見落とされがちなのが、フットバーの位置です。私が唯一自分仕様に変えていたのがここでした。
短すぎず、長すぎず——絶妙な位置関係が必要で、これは完全に個人差があります。水を引くという動作は、物を引き上げる動作と直結しています。ふくらはぎ、太もも、お腹、広背筋、上腕三頭筋、この筋肉たちで引くことができるのです。
🛶 探し方のコツ:試しに5kgぐらいの物を用意して、地面から引き上げる動作をした時に自分が一番力を入れやすい位置を探してみてください。それがフットバーのジャストの位置です。
これを合わせただけで、体全体の動きと水を捉える意識が180度変わりました。日々の練習の中で調整できる部分なので、自分にとってのジャストの位置を、各自で探ってみることが大事だと思います。
後半に落ちない人がやっていること

中級者が一番苦しむのが、後半の失速です。私の実感では、崩れる順番は決まっていて——全身の筋肉 → 呼吸 → フォーム、の順に崩れていきます。
- 腕が疲れなくなることが、うまいフォームで漕げている証拠。逆に腕が痛くなっているなら、フォームを見直す必要があります。
- 出遅れたと感じた時は、なるべく隣の艇と引き離されないように頑張ることが一番大事。離されすぎると心が折れてしまう人は多いですが、1艇分ぐらい後方の位置で押さえられるよう努力するだけでも違います。
💡 本番は練習の延長線上にあるので、離されてしまったらそれはそれでしょうがない——あとは自分との勝負になります。相手の船と1艇分を維持し離れずにいると、逆に相手が遅くなってくる瞬間を感じることがあります。その競り合いを楽しめるようになると、エネルギーが沸き立って爆発的な速度が出せる感覚がありました。
正直に言うと、後半の失速を「防ぐ言葉」のようなものはありません。普段の練習がそのままレースに出るだけです。あとは全力で漕ぐ、ただそれだけでした。
4. 中級→上級で伸びる人の共通点
- 一定ペースを守れる(前半突っ込んで後半失速、をしない)
- フォームの再現性(疲れても同じ漕ぎができる)
- 道具を自分仕様に詰める(パドル角度・長さ・艇のセッティング)
- メンタル:レースは自分との戦い。ピッチとフォームに集中し、周りに釣られない
陸トレは「引く筋肉」で選ぶ

水に乗れない日(冬・雨・移動日)は筋トレをしていました。ここで大事なのは、「引く筋肉」を意識することです。
船に乗っていて上腕二頭筋だけが痛くなる、というのはカヌースプリントにおいては良くないサインです。上腕二頭筋を使わずにいかに水を引くかが大事なので、その引く筋肉——上腕三頭筋・広背筋・腹直筋・腹筋・太もも——を鍛えることを最優先にしていました。
- ベンチプル、ワンハンドダンベルローイングを意識してやっていました。
- 自宅では、片方約7kgのダンベルを両手に持ち、前方・側方に約15回ずつのパンチ、アームカール15回、ワンハンドダンベルローイング片方15回、これを5セットずつ毎日行っていました。体全体の筋肉を意識するトレーニングです。
💡 正直に言うと、ベンチプレスはあまり効果を感じませんでした。普段の練習は学校や部活の内容によって変わってくるとは思いますが、「引く」という行為そのものに使う筋肉を自分なりに調べて取り入れることが大事です。トレーニング中も、足の先から腕の爪の先まで、連動した筋肉の意識を欠かさないようにしていました。
中国大会で優勝した時の話
高校時代、カヌーで中国大会を優勝した経験があります。種目は200m・500m、艇種はK1・K2・K4のすべてでした。
勝てた要因を1つ挙げるなら、日々の漕ぐ練習と筋トレ——水を引くために使う筋トレ——の体の連動を意識できたことだと思います。逆に、勝つまでに一番時間がかかったのも同じところで、水を引いてくるための体の連動(足・腹直筋・広背筋・上腕三頭筋)を意識することでした。上に書いたフットバーの位置探しや、引く筋肉を優先した陸トレは、まさにこの連動を作るためにやっていたことです。
まとめ
速くなる近道は「高めの一定ピッチ(目安120BPM)を、崩れないフォームで維持する」こと。
リズムは好きな曲(私はPoker Face)で体に入れる、パドルの角度とフットバーの位置は自分仕様に詰める、後半崩れるのは筋肉→呼吸→フォームの順だと知っておく——この積み重ねが中上級の差になります。
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